―人生において、人との別れは突然訪れる。
少なくとも、僕はそうだった。
忘れもしない、小学校6年生の夏休み。その日の朝はサマーキャンプに行くために慌ただしく過ごしていた。
「陽太、忘れ物ない?」
「うん、大丈夫。」
小さな台所で朝食を作ってくれている母にそう声を掛けられる。僕は手元のリュックサックの中身を最終確認していると横から小さな手が僕のリュックサックに飛行機のおもちゃを入れてくる。
「コラ、陽助。」
「う~~~~っ!!」
飛行機のおもちゃを入れてくる小さな手を優しく掴んでたしなめると、その手の持ち主は悔しそうに唸った。小さな手の方向に目をやるとおでこに熱さまシートを貼り瞼が重そうに半分だけ見開いた、僕とそっくりな弟、陽助がいた。途端に陽助は大きな黒目に涙を浮かべて僕の腰に両腕を絡ませて抱き着いてくる。
「ぼくもにいちゃんと、いっしょにいく~~~~~!!」
「ダメだよ、陽助…熱があるんだから、キャンプには行けないってお母さんにも言われただろう?」
「やだやだやだー!!」
この日陽助は運悪く夏風邪に罹ってしまい、一緒に行くはずだったサマーキャンプに行くことが出来なくなっていたんだ。テーブルの上に乗っている時計に目をやれば、針は集合の約束の時刻まであと5分に迫っている。けれど大粒の涙を流して僕に懇願する陽助にどうしたらいいか困っていると僕が困っているとお父さんが陽助を引きはがしてくれた。
「陽助、お兄ちゃんを困らしちゃだめだよ。それに、お兄ちゃんのいう通り寝てなきゃだめだよ。」
「やだー!にいちゃんとあそぶの!」
「陽助、お兄ちゃんが帰ってきたらいっぱい遊んでもらえるわよ。それまでにしっかりお熱下げておきましょうね。」
「うええぇえん!!」
「ほら、陽太、行ってらっしゃい!」
「う、うん…行ってきます、陽助、帰ってきたらいっぱい遊ぼうね!行ってきます!!」
「「行ってらっしゃい。」」
「うええぇえん!!」
陽助の泣きじゃくる声に罪悪感を感じながら僕は玄関を飛び出した。この時僕は知らなかった。これが僕が家族と一緒に過ごす、最後の日になるなんて。この時の僕は、知る由もなかったんだ。
続
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