消防隊員の男性に怒られた後一応煙を吸っていないかなどの簡易的な検査をしてもらった。診断結果も特段異常がなかったためすぐに解放され、家路へつこうとした僕の目の前にまた彼が現れた。
『どうやら無事切り抜けられたようだな、ウサギ。』「わぁ!?さ、サタン……!?何でまた僕の前に……」『ちっ……その辺は頭が回らねぇのか。仮にも俺を呼び出したニンゲンはテメェだ。仮契約の段階であったとしても契約者になりうるニンゲンの近くに現れるのは当然のことだ。
……さて。今回炎の中からテメェを救い出してやった“代償”を頂こうか。』「代償!?」『当たり前だ。悪魔がタダで力を貸すわけねぇだろうが。』
そんなの、聞いてない!!僕は心の中でそう叫んだ。サタンは確かに僕と女の子を助けてくれた。けれど“代償”が必要だなんて聞いてない!僕の眼前に居る黒猫のような姿をした生き物の正体は悪魔。まさか……考えたくないけど…、でも、ひょっとして……僕の魂を奪うつもりなんじゃ……!そう思った瞬間全身から血の気が引いていくのが分かった。
しかし、そんな僕の思いとは裏腹に彼の口から飛び出した言葉は意外なものだった。
『今回の力の“代償”は“俺の契約者になり、食事と住処と娯楽を約束しろ”だ。』「…………へ?」
僕の口から漏れだしたのは、何とも間の抜けた声だった。
『聞こえなかったのか?』「え、あ、いや……聞こえたけど……え?食事と住処と……娯楽……?」
僕がポカンとしていると彼は続けて先ほどの言葉の意味を説明をしてくれる。
『俺たちはもとは大悪魔だがな……過去天使たち“エデンの住人”との戦で敗戦した。その際に神によってこの“封印の首輪”を付けられ猫へと姿を変えられた。契約の条件も大幅に見直され、悪魔たちもニンゲンの魂を奪い取ることが不可能になったんだ。』「そ、そうなんだ……」『だから俺の契約者となり、食事と住処、それから娯楽を常に用意しろ。その程度ならテメェくらいのガキでも用意できるだろ。』
体の一部を奪われるわけでも魂を奪われるわけでもなく、彼の提示した条件は思ったよりもずっと簡単なもので全身のこわばりが一気に解け、僕は地面に座り込んでしまった。
「は、はは……良かった……でも……母さん(叔母さん)たちに何て言おう……」
こうして僕は半ば強制的に憤怒の大悪魔、サタンと契約することになってしまった。
――炎に恐怖心を持っているはずの僕が、何故か炎を操る大悪魔と契約する。
神様って奴は、僕と炎との縁を無理矢理繋ぎたいのだろうか?だとすればちょっとだけ恨んでやる。神様が存在するかどうかもわからないけれど、僕は茜色に染まった空を少しだけ睨みつけた。
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―――憤怒の大悪魔、サタン。
僕自身も彼の口からはまだすべて語られているわけではないが、彼はつみねこ七大罪、全ての悪魔たちの統率者であることは教わった。
七大罪とはキリスト教における“人間が堕落していく七つの感情”のことを言うそうだ。そしてその七つの感情にはそれぞれ対応する悪魔が存在する。
ー傲慢の大罪を統べるのは、ルシファー。ー嫉妬の大罪を統べるのは、リヴァイアサン。ー強欲の大罪を統べるのは、マモン。ー暴食の大罪を統べるのは、ベルゼブブ。ー怠惰の大罪を統べるのは、ベルフェゴール。ー色欲の大罪を統べるのは、アスモデウス。そして、ー憤怒の大罪を統べるのは、サタン。
サタンと生活をしているうちに僕は他の6匹の大悪魔である、つみねこたちと出会うことになった。彼らとの出会いはここでは割愛させてもらうが、彼ら自身もそれぞれ個性的であり、また特技も違うようだ。
中でも色欲の大罪のアスモデウスは占星術、天文学や数学、幾何学などに長けており特に中でも占いを得意としているらしく彼の占いは百発百中らしい。
この先の事件について語る前に、アスモデウスの占いで僕の未来が予言がされていたとは当時の僕はまだ知りもしなかった
続
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