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きさらぎ駅~焔ノ宿命①ーホムラノシュクメイー~

nakumo13


強盗殺人犯の放った炎により、たった一日で両親と弟を失ってしまった僕は父親の妹であるほのか叔母さんに引き取られることになった。叔母さん夫婦は僕にとても良くしてくれて、何不自由ない生活を保障してくれた。仮初であったとしても僕の本当の両親の代わりにと傷を癒してくれるよう愛情をたくさん注いでくれた。


そんな叔母夫婦に迷惑を掛けてはいけないと、僕も一生懸命“良い子”になれるように頑張った。だけど、静かに心の傷を癒したいと思っている僕の気持ちとは裏腹に世間は僕を放っておいてはくれなかった。


「不知火陽太君ですね、家族を失ってしまった今の心中は!?」

「犯人に対してどうお考えですか!?」

「事件の日はどう過ごされていたんですか!?」


病院に入院していた僕に毎日のようにメディアの人たちが訪問してくる。叔母さんや叔父さん、看護婦さんたちが何度も止めてくれたけど、それをも搔い潜って僕に心ない質問をぶつけてくる。僕はベッドの布団に包まって両耳を塞ぎながら叫ぶしか出来なかった。


「もうやめてよ!!」



世間から見れば僕のことなんてすぐに忘れられるだろうけど、彼らはホットニュースになるネタであれば何だっていいんだ。やられた側の人間の心の傷は癒えることもなければどんどん深い傷になって行くのに。


中学校に入学してもに僕の名字を聞くだけで周りの人たちは僕と関わろうとしなかった。ある者は哀れみの眼差しで僕を見つめ腫れ物に触れるような接し方を、またある者はメディアの人間たちと同じように僕の過去を根掘り葉掘り調べて、それをネタにストレスのはけ口にするような人間が。中学校の3年間ずっとずっとそんな奇異の目に晒され続ける日々を過ごした。



「どうして僕、生きてるんだろう。」



中学校の屋上に行っては何度も上下を眺めたことがある。


―陽助、母さん、父さん。


此処から飛び降りれば、空に居る皆に会えるのかな。


そんなことを考えるけど僕は臆病だ。いざ飛び降りてみようかと思ったら足がすくんで動けなくなる。死ぬのは怖い、弱虫な僕。飛び降りていなくなってしまえば楽になれるのに、という気持ちを屋上に置いて、僕は家路へとつく。


「よぉ、陽太くぅん?」

「ちょっと金足りねぇんだわ、俺らに援助してくんね?」


家路へとつく僕の目の前に立ち塞がったのは僕をいじめてくる不良たち。しかも今日はすこぶる機嫌が悪そうだ。僕はカバンを胸元に抱きしめ、震えながらも言葉を吐き出す。


「ぼ、僕…僕も、お金、ないから…」

「あぁん?なら俺らのサンドバッグになれよ!!」


怯えて動けなくなった僕を近くの河原で殴る蹴るの暴行を繰り返す不良たち。頬を殴られ、口の中が切れたらしく僕は口から血を吐き出した。


「げほっ!!」


もう嫌だな。どうして僕ばっかり。髪を掴まれ、体を引きずられそう思った瞬間だった。


僕の目の前が激しい閃光を放ち、地面から強烈な熱風を感じ取った。



『俺の目の前でぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー五月蠅ェぞ、クソニンゲンどもが。』



ビリビリと低い声が響き渡り、次の瞬間に物凄い炎が不良たちの方へ向かい不良たちはすぐに逃げ出し、僕一人になってしまった。そして不良たちを追い払ってくれた低い声の主は光の中から徐々にその姿を現した。


『テメェが俺を呼び出したニンゲンか?』

「ひっ…ひぃいっ…!!」


僕の目の前に現れたのは耳の先端には真っ赤な炎を灯しており、黒くて少し癖のある毛並みと金色に輝くドラゴンのような両翼、ドラゴンに酷似した緋色の鱗を持つ尻尾に、炎のように赤く染まった鋭い瞳を持った猫のような不思議な生き物だった。


その猫のような生き物は人語を喋り、僕に向かって自分を呼び出したのは自分かと尋ねてきた。さっきの不良たちとは違う、異質な存在に全身の細胞という細胞が警告を鳴らした気がした。


「…よ、呼び出した…?僕が…?」


恐る恐る僕がそう聞き返せば、その生き物はあからさまに舌打ちをし地面を指さした。


『それだ。テメェの血だ。』


彼が指さした地面に目をやれば先ほど不良たちに殴られたときに流れ出た血が引き摺られたときに円を描いていた。


『それは魔法陣だ。テメェの血で俺を呼び出した。俺はサタン、憤怒の悪魔だ。』

「嘘でしょ!?そんな奇跡的な魔法陣存在するの!?」


僕が驚いてそう叫ぶとサタンと名乗った悪魔は不機嫌を隠すこともなく再び舌打ちをする。


『ちっ……こんな弱虫のウサギが俺を呼び出すとは……』


彼はそう話を続けようとしたがその時、彼の背後で真っ黒な煙が上がっていることに僕は気が付いた。


「あれは……!!」

『あっ、おい!!』


考えるよりも早く、僕はその場から走り出した。


嫌な予感がする。


―これは、あの時と同じだ。


黒煙の立ち上る方角へと真っ直ぐ突き進んだ僕は目を見開いた。目の前に広がる光景。忘れたくても忘れられない、あの時と同じだ。


「いやぁあぁ!!ミキちゃん!!ミキちゃん!!」

「ママあぁぁ!!助けて!!げほっ、ごほっ!!」


僕の隣で悲鳴を上げている若い女性と、炎に包まれる家の中に取り残されている小さな女の子。


―――ドクンッ。


女の子の姿が、あの時の陽助と重なって見えた。炎は、怖い…でも…


拳を固く握りしめ、僕は炎の燃え上がる家へと飛び込んだ。火災時に一番気を付けなくてはならないことは一酸化炭素などの有毒ガスだということを知っている僕は煙を吸わないよう気を付け、女の子の居るであろう二階を探す。二階の突き当りの部屋に行くと女の子の咳込む声が聞こえてきた。



「げほっ、ごほっ…!!」

「ミキちゃん!!もう大丈夫だよ!!」


女の子は可哀想に涙を流し怯えた瞳で僕を見上げていた。僕は女の子を安心させるように抱きしめ、笑顔を見せる。


「すぐにここから出よう、煙を吸わないように気を付けて…」


僕はポケットから自分の持っていたハンカチを彼女に渡して煙を吸わないよう注意していると僕の背後でパキリ、と嫌な音が聞こえた。次の瞬間、炎で屋内の柱が倒壊してきた。


「しまった!!」


僕は女の子を守るように自らの体の内側にギュッと抱きしめ、瞼を閉じた。しかし柱が倒れてくることはなく、僕の頭上に何か重みを感じ取った。恐る恐る目を開くとあの低い声が聞こえた。


『ふん、ウサギのくせになかなか根性座ってるじゃねぇか。』

「サタン…?」


僕の頭の上に乗っていたのは先ほど僕が呼び出してしまったという、サタンだった。
























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