「はっ!!?」
目の前に電車が迫ってきて確実に自らの死を実感した直後、僕は目を覚ました。全身にまとわりついた冷汗に不快感を覚えながらも僕は辺りを見渡した。辺りを確認してみるとそこは電車内のようだった。電車内の人工的な明かりと、規則的に揺れる電車の走行音に先ほど電車に轢かれかけた事は夢だったのだと僕は安堵のため息を漏らした。
「はぁ…良かった…夢だった……んだよ……ね…?……あ…」
窓の外の景色を確認するといつも見ている光景ではなく、見覚えのない景色が広がっている。しかもいつも途中停車する駅の時間帯を過ぎ、そこから体感でもう20分以上も乗り続けている気がする。
……もしかして僕は電車を乗り間違えたんだろうか?そう思い、母さんに連絡を入れようとカバンの中からスマホを取り出す。しかし、スマホの右上画面に表示されている文字は、圏外。ダメ元で母さんにメッセージを入れてみるが“送信できません”という文字が返ってくるだけだった。
……しまったな……母さん、きっと心配してるだろうな…そんなことを思っていると突如車内アナウンスが流れた。
『次はー、きさらぎ駅ー、きさらぎ駅ー。』
「きさらぎ駅…?」
聞いたことがない駅名に僕は戸惑う。スマホの右上画面に表示されているのは圏外の文字。アプリもいくつか試してみたが、どれも機能しない。
どこの駅かさえわかれば最悪帰ることが出来る。そう思い一縷の望みをかけてインターネットに接続してみると圏外であるにもかかわらず検索だけは何故かすることが出来、不思議に思いながらもきさらぎ駅について調べてみると、そこに書かれていた情報に僕は身震いした。
「きさらぎ駅は……存在しない……駅……?」
“きさらぎ駅”という単語を調べて、わかったことは“きさらぎ駅”は都市伝説であり、日本の何処にも存在しない駅名だということ、過去、このきさらぎ駅に迷い込んだ人間は帰ってくることが出来ないという結果だった。
言葉では表しようのない恐怖が全身を駆け巡り、僕はそこでもう一度当たりを見渡してみる。そう言えば、この車内には誰もいない。もしかして…此処は本当に……!僕はすぐさま立ち上がり、誰か人がいないか車内を走り回る。
「誰か!!誰かいませんか!!?」
僕は大声を出して次の車両へと続く扉を開けた。
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人を探して次の車両へと続く扉を開くとそこに広がっていた光景は……
「え……?此処は……」
……僕の……昔の家?
玄関には営業をしていた父さんの革靴、今では僕とそれほど変わらないサイズの女性ものの、母さんが履いていた靴、そして僕よりもずっと小さな、戦隊ヒーローの描かれている男の子の小さな靴が並んでいる。台所の方からは懐かしい炊きものの香りが漂ってくる。これは…本当の母さんが昔作ってくれた煮物の匂い……
僕が呆然とその場に立ち尽くしていると、リビングの方から誰かが走ってくる音が聞こえる。
「おかえり、兄ちゃん!」
走ってこちらに近づいてくる足音の正体は、死んだはずの僕のたった一人の弟、陽助だった。昔通っていた幼稚園スモックを着て、元気な笑顔を浮かべて僕のもとへ走ってくる。弟が目の前で立ち止まった瞬間、僕は彼を思いっきり抱きしめた。
「兄ちゃん……?」
「ごめんっ…!!ごめんね、陽助!!」
僕の目からはぼたぼたと大粒の涙が流れ、視界を歪ませる。弟は何が起こったのかわからないといった表情を浮かべながら僕に尋ねてくる。
「兄ちゃん、大丈夫…?」
「……うん…、大丈夫……」
弟の言葉に応えるため、顔を上げるとそこには……
「なんででたすけてくれなかったの?」
右側の顔面は焼け爛れて崩れ落ち瞳からは光が失われた、弟の姿が在った。
「うっ…うわあぁあぁあぁあっ!!?」
続
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